工場の設備更新、現場の解体作業、日々の製造工程で発生する鉄くず。 こうしたスクラップを前に、「どうやって捨てようか」「ひとまず産業廃棄物の処理業者に見積もりを依頼しよう」と考えていないでしょうか。
日々の業務に追われる中で、その判断を急ぎたくなる気持ちはよくわかります。 しかし、鉄くずの「捨て方」を安易に決めてしまうことには、担当者として知っておかなければならない2つの大きな落とし穴が潜んでいます。
一つは、「法的なリスク」です。 万が一、依頼した業者が不法投棄などをした場合、廃棄を依頼した側の企業も責任を問われる可能性があります。
もう一つは、「金銭的な損失」です。 その鉄くずは、本来お金を出して「捨てる」ものではなく、お金をもらって「売れる」資産だったかもしれないのです。
「知らなかった」では済まされない事態を招かないために、まずは鉄くず処分の基本的な知識と、そこに潜むリスクを知る必要があります。
■ 鉄くず処分の選択肢。「廃棄(産廃処理)」と「売却(有価物)」の違い

鉄くずの「捨て方」には、大きく分けて2つの選択肢しかありません。 それは、コストを払って「廃棄」するか、利益を得て「売却」するかです。
・1. 産業廃棄物として処理する(コストが発生)
これは、鉄くずを「廃棄物(ゴミ)」として扱い、処理費用を支払って処分を委託する方法です。 この場合、法律に基づき、排出事業者はマニフェスト(産業廃棄物管理票)を発行・管理し、最終処分までを適切に把握する義務を負います。 不純物(泥や油、他のゴミなど)が非常に多い場合や、リサイクルが困難な状態の場合は、この方法を選択せざるを得ません。
・2. 有価物として売却する(利益が発生)
これは、鉄くずを「有価物(資産)」として扱い、金属リサイクル業者などに買い取ってもらう方法です。 廃棄物ではないため、マニフェストの発行は不要です。コストがゼロになるだけでなく、企業の収益に変わります。
重要なのは、皆様の手元にある鉄くずが「廃棄物」なのか「有価物」なのか、その境界線は非常に曖昧だという点です。 同じ鉄くずでも、汚れた状態であれば「廃棄物」となり、分別されていれば「有価物」となります。 そして、どの業者に依頼するかによっても、その扱いは大きく変わってしまうのです。
■ なぜ「売れるはずの鉄くず」が「廃棄コスト」に変わるのか?

本来なら「有価物」として売れるはずの鉄くずが、なぜ「廃棄物」として処理費を請求されるケースがあるのでしょうか。 それには、業界の構造が関係しています。
一般的な廃棄物処理業者の中には、金属リサイクルに関する専門的な知識や、鉄くずを処理・加工するための専用設備(切断するギロチンシャーなど)を持っていない場合があります。
そうした業者は、引き取った鉄くずを選別することなく、そのままリサイクル専門業者へ横流しすることになります。その際、自社の手間賃や中間マージンを「廃棄処理費」や「運搬費」として、排出した企業側に請求するのです。
また、価値判断の専門知識がないために、大きな失敗を招くこともあります。 例えば、鉄くずの中に、価値の高い「銅」や「アルミ」といった非鉄金属が混ざっているケースです。
リサイクルの専門家が見れば、それらは丁寧に分別することで価値を最大化できます。 しかし、専門知識のない業者にとっては、それらは「不純物」でしかありません。鉄と非鉄金属が混ざった「雑品(ざっぴん)」として扱われ、結果として価値が大幅に下がるか、最悪の場合「処理困難物」として廃棄扱いにされてしまうのです。
■ 「知らなかった」では済されない。鉄くず処分、3つの典型的な失敗例
鉄くずの「捨て方」をめぐる判断ミスは、単なる「もったいなかった」という話では終わりません。企業の信用や経営に直接影響を与えかねない、深刻な失敗例を紹介します。
・1. 【失敗例1:法的リスク】安さだけで選んだ業者が「無許可」だった
「どこよりも安く処分します」という言葉だけを信じて業者を選定。しかし、その業者が産業廃棄物収集運搬業の許可や、古物商の許可を持っていなかった。後にその業者が不法投棄を行っていたことが発覚し、廃棄を依頼した排出事業者として、警察や行政から事情聴取を受けることに。原状回復費用を請求されるリスクも発生しました。
・2. 【失敗例2:金銭的損失】価値ある金属を「鉄くず一式」で買い叩かれた
工場から出た機械類や配線を、すべて「鉄くず一式」として見積もりを取ってしまった。実際には、機械内部には銅製のモーターやアルミ部品など、鉄よりもはるかに価値の高い非鉄金属が大量に含まれていました。それに気づかないまま、鉄の相場価格でまとめて安く買い叩かれてしまい、本来得られるはずだった数十万円の利益を失いました。
・3. 【失敗例3:機会損失】定期発生するスクラップを「都度廃棄」していた
製造工程で毎日一定量の鉄くず(切削くずなど)が発生するのに、溜まるたびにスポットで廃棄物処理業者に「処分」を依頼し、費用を支払い続けていた。もし最初から金属リサイクルの専門業者に相談していれば、専用の回収コンテナを無償で設置してもらい、「定期買取」の仕組みを構築でき、安定した収益源になっていたかもしれません。
これらの失敗を回避するために必要なのは、価格の安さだけで判断せず、信頼できる「金属リサイクルの専門家」を見極めることです。
■ 失敗しない業者の見極め方。廃棄コストを「資産」に変えるパートナーとは
「捨て方」で後悔しないためには、廃棄物処理と金属リサイクルの両方に精通し、法令を遵守する優良なパートナーを見つけることが最も重要です。以下のポイントで見極めてください。
・1. 買取から加工・販売まで「一貫体制」か?
業者が鉄くずを回収するだけでなく、自社工場で切断・加工し、最終製品(リサイクル原料)としてメーカーや海外に直接販売するルートを持っているかを確認しましょう。自社で溶錬炉を持つなど、加工まで一貫して行える業者は、中間マージンが発生しないため、その分を高い買取価格として還元できる体力があります。
・2. 多種多様な「重機・車両」を保有しているか?
「大型トレーラー」「クレーン付きトラック」「コンテナ専用車」など、豊富な車両や重機を自社で保有しているかも重要な判断基準です。 「大量のくずを一気に運びたい」「狭い場所から引き取ってほしい」といった現場の多様なニーズに対し、最適な車両で迅速に対応できる業者は、結果として運搬効率が良く、余計なコストを削減できます。 優良な業者の強みについては、その企業のウェブサイトなどで確認できるはずです。
https://www.ando-metal.jp/strength
・3. 100年を超えるような「実績と歴史」があるか?
金属リサイクル業界は、関連法規の改正も多く、法令遵守(コンプライアンス)の意識が厳しく問われます。100年を超えるような長い歴史を持つ企業は、それだけ長期間にわたって法令を遵守し、適正な処理を続け、顧客や地域社会からの信頼を積み重ねてきた証と言えます。
さらに、鉄くずだけでなく、価値の高い銅やアルミ、ステンレスといった「非鉄金属」も専門的に扱える知識があるか、また、定期的に発生するスクラップに対して「専用コンテナの設置」といった継続的なリサイクルプランを提案できるかも、収益を最大化する上で欠かせないポイントです。
■ 鉄くずは「捨てる」から「活かす」資産へ。まずはその価値を知ることから
ここまで、鉄くずの「捨て方」に潜むリスクと、その回避策について解説してきました。
鉄くずの処分で悩むことは、企業のコンプライアンスを守り、「法的リスク」と「金銭的損失」を回避するための重要な分岐点に立っているということです。
その鉄くずは、コストを払って「捨てる」ゴミではありません。適切に扱えば、企業の利益を生み出す「資産」です。そして、そのリサイクルは、廃棄物を減らし資源を循環させる「未来への投資」でもあります。
「うちの工場から出る鉄くずは、資産になるのか、それとも廃棄物なのか」 「今の処分方法や価格は、本当に適正なのだろうか」
もし少しでも不安を感じたら、その判断を自社だけで行う必要はありません。まずは信頼できる金属リサイクルの専門家に相談し、その「本当の価値」を目利きしてもらうことから始めてください。
多くの専門業者は、無料で査定や現地調査に応じています。その鉄くずが持つ可能性を知ることが、廃棄コストを利益に変える確実な第一歩となります。

